大切なブエノスの友人たち。

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シルビア〔左)と長女。

ブエノスアイレスに来て、いつものことだがキリがないほど人と会うことが多い。これまでの人生で世界中たくさんの友人に助けられてここまでやってこられたのだからしょうがないのだが、ブエノスでも本当によい友人たちに恵まれている。今回は、タンゴダンス世界選手権のシルビア。この間も書いたかな?イバラ、テレルマンとどちらかというと今のクリスティーナ大統領に近い市長が続いた後、現在のマクリが市長になって、今後選手権はどうなるのか?と心配した後、3月から8月に開催時期がずれただけでより派手に続けると決定した直後、恐る恐る新スタッフと会議をしたときに出てきたのが、モッシ現総合プロデューサーとこのシルビアだった。モッシは元ギタリストで結構おとなしい感じの人、このシルビアはその下なのに、声のでかいうるさい女だった。ただ、アジア大会に関して、ダンス世界とは縁のない弊社がやっていて、非常に公平な運営をしているとの情報があったようで、基本的には悪くない雰囲気だったのだが、細部では新しく取り決めることが多々あった。悪いが、タンゴの世界では、お前たちより数倍深くつきあってきているから、俺たちは素人相手に我慢しながらやってるんだ、くらいの勢いでかなり声を張り上げてやり合った記憶がある。で、おおよそこちらの要求は飲ませた記憶がある。そんな関係だったが、最終的には最も親しい関係になった。旦那は大物アーティストの音響を手がける著名ミキサーで、選手権の決勝の卓は彼が握っている。悪いが、他国の素人プロデューサーとは訳が違う。すっかり息も統合したし、なにより、俺たちは偉そうにやってくるのではなく、働きに来てる、と言う姿を見せて、彼らもそれなりの評価をしてくれたよう。以来、家族ぐるみの付き合いをするようになった。今回のアジア選手権では、女房がシルビアに小さなお土産を渡したら、実は翌日から小バカンスに出るから、とお返しの土産をホテルまで見て届けてくれた。ラテンアメリカとの付き合いはこれをおろそかにする終わりだ。今後も良い付き合いを続けて行けそう。

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グスターボ・ロペス氏〔右)と。

次に、ブエノスアイレスに来ると、必ず会うのが前政府副官房長官のグスターボ・ロペス氏。イバラ前々市長時代の文化長官で、イバラ指揮の下で「タンゴ」の世界的価値について調査をし、「タンゴ」に地元で思う以上の世界的価値があることを示し、現在の「タンゴダンス世界選手権」を実現させた人だ。その後、彼とも家族ぐるみでおつきあいさせてもらっているが、本当に知的で魅力的な人だ。タンゴだけでなく、フランスのポップス始めヨーロッパ中の音楽やフラメンコもかなり詳しかったりする。ブエノスアイレスだけでなく、アルゼンチンの古い歴史ある建築に光を当てて、修復・保存運動を開始したその人でもある。基本的にはいわゆる「政治家」とは相容れない人柄だが、弁護士としての裁量も相当なもので、イバラ時代からその力を買われて政治の世界にも顔を出すようになった。タンゴダンス世界選手権が落ち着き始めた頃、あのクロマニオン事件がきっかけでイバラが退陣することになった時に、彼も一緒に辞めて、一時は日本のNHKみたいな存在のカナル(チャンネル)7の総裁に就任していた。ところが、そこで起きたのがあの新DIGITAL TV方式の問題。デジタル方式はアメリカ、日本、ヨーロッパの3つの方式があって、アルゼンチンはヨーロッパからの借金もあるからヨーロッパ方式に決まりかけていた。そこで、ブラジルのルーラ大統領が日本方式を決めて、南米中を同じ方式にしようとクリスティーナ大統領に持ちかけられていた。クリスティーナとしてはヨーロッパにも借りはあるが、ルーラ・ブラジルとも良好な関係を築き始めたばかり。そんな中、クリスティーナ大統領が直々にグスターボ・ロペスに声をかけ、副官房長官に就任となったのである。それからも、アルゼンチンのマスコミを独占するクラリン・グループに対し、メディアの新規律を作るいわゆるメディア法では強力な反対を押し切って自由なメディアの世界を作り上げることに成功。しかし、選挙を控える今年になって、クリスティーナから「市長」選挙への立候補を打診されて「勝つわけはないが、正式に政治家としてのスタートをきる」ために出馬、結果は予備選で敗退した。しかし、政治家として生きるためには出馬が肝心。大臣になるにも出馬が有利である。

今度の選挙の件はともかく、8月9日、そして10月25日の大統領選挙の行方を聞いてみたが、慎重だ。

「年初の大統領密約事件を覚えているだろう?あれはクリスティーナ政権にとっては大きすぎる事件だった。でもあの裁判も非常に正しく進行し、結局あの現場に他人はいなかったと言う結論に落ち着くようになった」よいう。もちろん、今回もこの弁護担当はロペス氏だ。だから、大統領候補マクリ側が今度の市長選で僅差でしか勝てなかったからクリスティーナの方が有利とする見方にも慎重にならざるをん得ない、何を仕掛けてくるか、何が起こるかわからないのが南米の選挙だから」と語ってくれた。私も裁判がらみでは、アルゼンチン作詞作曲家会長の事件が昔あって、汚職を追及しようとした人間が夜中にやはり不利場でピストル自殺するという事件を結構近くで見たことがある。歴史的にこの国の闇の世界は、結構深いものがある。どちらの何が正しいかは正直門外漢の私にはわからないし、少なくとも何か論評できる立場にはない。難しい、のだ。

しかし、このロペス元副長官、明らかに良い人だ。今でも英語教師の奥さんと、さほど立派な家を手に入れるわけでもなく、普通の市民としての生活を送りながら重要な仕事を淡々とこなしている。彼の頭の半分以上は文化であり、歴史だ。是非、今後も頑張って欲しい人間。今回も少しだけ以来ごとがあったが、忙しい間を縫ってかなり協力してくれるという。嬉しい仲間である。

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アカデミーの建物前に新設された前会長のオラシオ・フェレール像〔左)と新会長ガブリエル・ソリア氏。

そして、国立タンゴ・アカデミーのガブリエル・ソリア会長。昨年、ピアソラとの共作者で有名だった詩人オラシオ・フェレール会長が亡くなって、急に会長の立場を引き継ぐことになった若い会長だ。フェレール市が若い頃から彼を買っていたこともあって、なにしろタンゴに関しては天才的な記憶力と、人脈が凄い。人脈で言うと、フェレールしのおかげもさることながら、彼自身の企画力と行動力に寄るところも大きい。現実に今は亡くなってしまったタンゴの巨匠たちのインタビュIMG_1099ーもずいぶん溜めていて、弊誌ラティーナで毎月紹介させてもらっているが、どんなイベントであれ、ビデオカメラを担ぎながら、丹念に記録し続ける。しかも、例えばトロイロの執念だった昨年は今生きるタンゴのすべての巨匠を総動員して記念コンサートを一年間に及んでやり続けた。彼の熱意にほだされて、出演料は本飛渡誰も要求しなかったらしい。当然入場料も限りなく無料に近かった。しかも、老年のアーティストたちの録音には時間をかけて新録音をずいぶん録ってCDにもした。今回、真相なったアカデミーを訪ねたが、博物館もレッスン室もすべてが新装されていて感動した。コノアカデミー、今まではフェレールの印税でカバーしてきた収入はほとんど見込めない中で、実に良くやっていると評判である。

こういう友人たちに合うごとに、友人という存在が今まで自分のやってきた仕事のほとんどを占めてきたのだ、と痛感する。これだけは今後も変わることはない。