キューバ・バラデーロで聞いた最高のブラジル!

1980年代、キューバ政府から招待されて何度かキューバのバラデーロで開かれた「バラデーロ国際歌謡フェスティバルに招待されて何度か行った。当時のキューバは、崩壊前のソビエト連邦がキューバの砂糖を大量に高い値で買い上げるなどして、大幅にキューバ援助をしていた。だから、ハバナのソ連大使館近くの外国人専用マーケットは、普通の外国人が欲しいものが安くたくさん並んでいた。だから、経済的にも問題なかった頃で、バラデーロのフェスティバルもステージが2面合って、一つのグループが演奏し終えると、ステージごと回転して、しっかり準備されたステージが現れるから、前の熱気が次のステージにそのまま繋がれる。出演者も世界中から素晴らしいのがやってきた。スペインに亡命中のメルセデス・ソーサにもあったし、メキシコで活躍中のデニス・デ・カラフェも聞いた。他の年にはジルや、カエターノも聞いた。しかも、バラデーロが今のようにマイアミ・ビーチやメキシコのカンクンを真似た、他と余り変わらない大リゾート然とはしていなくて、海は透明、ホテルだって古めかしいが、自然の風景に溶け込んだ素晴らしいものだった。海も全く手を入れていない自然のままで、あの頃キューバが出兵していたアンゴラ帰りの兵士たちが家族と楽しむ風景にも出会ったりした。しかし、キューバ政府はこのフェティバルの参加者をネット用のデーターとしては公表していない。例えばオスカル・デ・レオンのように、ようやく活躍できたアメリカで入国禁止になるなど、キューバのイベントに参加すると酷い仕打ちを受ける場合があるからだ。さて、80年代前半の何年だったか記憶は定かではないが、シコ・ブアルキの生演奏を初めて聴いた。海沿いのアンフィテアトロでMPBクアトロをバックにした、それは素晴らしい演奏だった。あの汗が止まらない熱狂の中で、最後の曲が「カリシ」だった。あまりの素晴らしさに、一瞬凍り付いた様になってしまった。シコの声が録音で聞いていたよりも数倍素晴らしかったし、終わって一瞬空気が止まってその後すぐに強烈な熱狂的オーベーションとなった。

今回のe-magazine LATINAでは、そのシコ・ブアルキの「カリシ」をテーマにした記事から、中村安志氏の「シコ・ブアルキの作品との出会い」という連載が始まった。中村氏とは、彼がまだ外語大生だった頃から良く飲みに連れて行ったりして知り合いだったが、その後彼は外務省に入り、リオ、ブラジリア、ブリュッセル、ボストンなどに着任して今は日本に帰国中。自身が7弦ギターも演奏する音楽家だが、奥様はブラジル音楽ファンなら知らないものはいない城戸由果さん。外交官で文化に詳しい人は結構いるが、彼のブラジル音楽の知識はもの凄い。今回も、「カリシ」に関する深い話が一杯。シコに関する話が続いた後はジョビンの話へと続くそうだ。彼のポル語は日本の皇室や政治家などの通訳で鍛えられた超の字のつく本物だし、なにしろブラジルでは音楽家やその周りの人間との付き合いも半端じゃなかったから彼の訳詞はこれ以上ないもので、しかもそれへの深い解説がこの連載で語られる。本当にためになる面白い記事が登場している。