タンゴ・カフェ、ブエノスへ


ついこの間帰国したばかりなのに、またまたアルゼンチンに向かう。今回はNHKの番組「栗山千明のタンゴ・カフェ」のコーディネートを引き受けていて、その最終局面の重要なシーンが16日に。これは失敗できないためにその日までに到着する必要がある。なにしろ、「カニング」というミロンガでのパーティだが、ここで、今回の主役であるガスパルと栗山千明のダンス・デモを設定した。しかし、そのためには十分なファンを集める必要はあるし、会場も色々設定する必要がある。ピン・スポットやスモーク、クレーンも要してあるが、電源の問題など心配事が一杯。

いつものアメリカン航空を予定していて、大分前からHPを覗いていたが,最終的に予約をしようとしたら何故か出発の15日だけが急に値段が高くなっている。それも半端じゃない上がり方だ。恐らく何かあるのだろう。で、同じワンワールドのブリティッシュ・エアーを覗くとこちらは普通の価格。久しぶりにヨーロッパ経由で向かうことにした。

東京タンゴ祭を終え、打ち上げを早めに切り上げて殆ど寝ずに準備。朝早く家を出た。ヨーロッパ便は朝早いのが問題。ブリティッシュ・エアーはその昔ポルトガルの仕事が続いてよく行った頃に使った程度で久しぶりだ。ロンドンのヒースロー空港はその昔、赤軍の容疑がかかったのか身体中調べられたことがあって余りよい印象が無い上、今年はオリンピック・イヤー、それももうすぐ始まるからかなりチェックが厳しいだろうと憂鬱だったが、実際には普通に通過することが出来た。アメリカ廻りよりは少しだけ時間が長いがこの利便さならヨーロッパ廻りも悪くない。ヒースローも昔とは大分変わっていて、全体的になんだか産業革命っぽい?ゴツゴツしたデザインだが、意外に使い勝手の良い空港だ。

エセイサ空港には16日の朝到着。そのまま前回から使っている同じアパートへ。まぁ、普通のアパートで、結構広いし風呂も台所も完璧だが、エアコンだけが小さくてあまり効かない。で、今回はエアコンはそのままでよいから電気ストーブと少し厚めのブランケットをと要求したらOKだったので今回もここにした。ここの良いのはネット環境が完璧なこと。1週間前から来て、NHKのスタッフと同じホテルに泊まっている大典社員がここに来てネットの早さを羨ましがるほどだ。しかし、初日だけはオーナーが料金の払い忘れで使えなかったが、すぐに回復して,一番気になる問題も解決。ストーブも赤外線の立派なのを取り付けてくれたから大満足だ。不動産屋のフェルナンドも、ここを気に入ってくれたからと、かなり協力的に動いてくれる。

さて、部屋の準備をしてNHKのスタッフと会場視察。天井にあるなにやら汚いミラーボールとその廻りの意味のわからない照明機材を撤去する約束になっていたのだが、これをやっていないので早速撤去を依頼。あまり動き幅が少ないからクレーンは使わないという。個人的にはさほど動かなくても上からの絵はかなり大事と思ったが、まぁ、私の口出す問題ではない。一応準備をまとめて部屋に帰り、早速エドゥアルドに客入れの依頼をし、FBで仲間のプロ・ダンサーたち向けに「大集合」の告知。しかし、実際には会場を観に行った時点ですでに席は満杯なほどの予約があった。あとは熱気を煽るためにもう少し客を入れたいと思いFBで告知したところ,すでに何人かから「明日出席する」の返事を貰った。タンゴ・ダンサーたちのFB利用率は異常に高い。

客の多さでは一番安定しているし,客層も若いのが「カニング」で、コロールタンゴとグローリア&エドゥアルドの組み合わせでここが一杯にならないことはあり得ないが、それでもここのミロンガは客が少ないといかにも寂しいだけに一安心だ。その後、栗山千明さんの練習するAYRES TANGUERASへ行ってガスパルに状況を確かめるが、「大丈夫、彼女大したものだ、心配ない」とのこと。放送されて、踊りの充実ぶりに、これは1週間ではなく,どこかで事前に練習していたのだろう,と邪推する人もいるかも知れないが、これはNHK側の意向で正真正銘、こちらに来てから、しかもガスパルが帰国した10日から本当に1週間だけで作り上げた振付だ。かなり心配していたが、栗山さんという女優、ただものではない。ステージタンゴ独特のテクニックもすっかり習得、自分のものにしている。驚くほどの出来だ。

翌日1時から会場の整理と、天井の照明道具の撤去をして、楽屋、その他の細かいことをチェック。3時からはコロールタンゴのリハも始まって、その風景も録画、録音する。コロールタンゴの演奏、やはり最高だ。7曲ほど録音したが、熱の入った素晴らしい演奏だった。さて、夜の10時までは他のイベントが入っているから機材をそのまま残して一応アパートへ。この日は11:00からミロンガ開始、25時からコロールタンゴの演奏開始で、グローリア&エドゥアルド,ガスパル&栗山千明のデモ・パートは25:時45分くらいからのスタート。

22時、ピン・スポット2台、ジェネレーター2台、ライトなどのセッティング。が、ここに来て新しくレンタルしたジェネレーターの調子がおかしい。色々調整した挙げ句、並列つなぎから一台づつの繋ぎにしても駄目。ケーブルをとりに行って試すがこれも駄目。結局一台は直で繋いで,もう一台はこの会場の電源に繋いでなんとかOK。神に祈る気持ちだったが、なんとかこれで行けそう。

23時。好調に客が入ってくる。裏で準備が整ったのが24:30分くらいだ。なんとかコロールタンゴの演奏が無事始まった。この会場は空間が広いから演奏がゆったり聴ける。3曲くらい演奏するが誰も踊り始めない。そこで、歌手のロベルト・デカーレがダンスを勧めると,一斉に大ミロンガがスタート。頭に描いたとおりの光景が目の前に現れて一安心。ディレクター氏も満足そうだ。で、ここの経営者オマールが司会役で出てくる。まずは、コロールタンゴと一緒にやったことのあるロシオ&ヘルマンが。完璧なステージ・タンゴの見本。で、オマールがまたまた登場。栗山千明がブエノスアイレスに来て、1週間前からガスパルと練習をしたことを観客に告げる。ガスパルは1週間前までは選手権の日本にいたのだから確かに練習のしようがない。この企画通り、その前には何も練習せずに1週間でどこまで覚えられるか、これが今回の企画との説明。

そして、コロールタンゴの演奏する「レクエルド」がスタート。栗山&ガスパルの登場だ、最初は疑いの目で観ていた観衆も、ダンスの想像以上の完成度の高さに引き込まれていく。やがて、ワン・シーン毎に大きな拍手が湧く。はっきり言ってここまでは予想していなかったのだが、栗山さんの頑張りに改めて脱帽。開始前は極度の緊張でかなりピリピリ・ムードが漂っていたのだが、始まるともう経験十分のダンサーのような表情、演技、そしてそれを応援するかのような観客の歓声、拍手。思わず目頭が熱くなった。この女優ただ者ではない。本当に1週間でここまで仕上げられるのか?大したものだ。踊り終わって、彼女の表情もすっかり緩やかになった。そして、グローリア&エドゥアルドがアナウンスされるともう会場はさらに騒然。みんなスタンディングで彼らを迎える。年季の入った素晴らしいタンゴ・ダンスに彼らの一ステップ毎に拍手が湧く。貫禄のデモだ。じつはオマールはブエノスのミロンガ協会の会長、エドゥアルドはタンゴダンス教師協会の会長という間柄で、二人が一緒になってこの企画を応援してくれていた。彼らに心から感謝だ。そして、最後にもう一度、アンコールに応えてガスパル&チアキのカップルが再度踊る。栗山さんの表情もすっかり余裕が見て取れる。今回のこの仕事、かなり満足に終わったと思う。

昨日上げていたFBのイベント招待に応えて,随分たくさんのプロのダンサーたちも来てくれた。一様に「本当に1週間?」の問い。その後はみんなと感謝の盃。気がつくと午前4時半を廻っていた。火曜日の夜中、というか明け方だ。不思議な国だ。「真剣に遊ぶ」ために働く国と、「働くため」に働く国の違いか?羨ましい限りだ。

テレビ番組の取材コーディネートという仕事を今までもかなり引き受けてきたが、スタッフも出演者もかなりハードな日程で、オーバーではなく寝る間もない。私がブエノスに着くまでにも随分の量の撮影をしていたが、その後も帰るまでびっしりとスケジュールが組まれている。ボカでの撮影では、現場の仕切り屋と揉めたり、7月9日通りにある市の建物の屋上からオベリスコを撮影するのに立ち会った。と、屋上にはまったく柵がなく、それは怖い取材だったが、カメラマン氏は動じることなく、ぎりぎりの所にカメラを建てて撮影する。危険の伴う仕事だが、さすが。どの絵も素晴らしい。

そんな撮影を横で見てきて、ようやく22日、全員が帰国した。今回は「アジア大会」「東京タンゴ祭」と弊社のイベントが続いて、アジア大会で審査員をしたガスパルも担当の大典社員も10日に到着、グローリア&エドゥアルドもヨーロッパから帰国したのが11日と、直接コーディネートするのが遅くなった。で、いない間には色々な手違いもあったようだが、最後にはすべてが解決して全員が笑顔になれた良い仕事だったと思う。栗山さんもかなりのハードなスケジュールだったけれど,スタッフよりも少し早く帰国。最後は晴れやかな表情で帰国の途に就いた。前日はパレルモの美味いイタリアン。レストランで打ち上げをやったが、みんな心から嬉しそうだった。それが何よりだった。

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