楽しみな夏のタンゴ・イベント


ブエノスアイレスから帰国して2週間、今回は調子を取り戻すのに時間がかかったが、なんとか歯車が回り始めた感じだ。向こうでの仕事の報告をしたり、もうすぐ始まるタンゴダンス世界選手権のアジア大会や東京タンゴ祭の準備もあるが、残っていた社員たちの完璧な仕事ぶりで、私はさほど動く必要もない。来年の会場取りまで決定して、かなり安心だ。

NHKの「タンゴカフェ」の方もいよいよ回り始めてきた。かなり詳細にスケジュールも出てきて、ブエノス側との打ち合わせも概ね順調に動いている。アジア大会も、今年は海外、特に韓国勢の参加が多い上に、出場者数もかなりの数になって来た。嬉しいのは,昨年まで年々減少してきたステージ部門の出場者が増加したこと。ヒロシ&キョウコたちがチャンピオンになって以来、サロンの人気が急騰、昨年は開催直前までステージ部門の出場者の減少に頭を痛めたが、今回はすでに十分な出場者の申し込みがある上、今まで海外からの参加が少なかったステージ部門に海外からの出場申し込みがあるなど,明るい話題も出てきている。サロンがタンゴの醍醐味であることは変わらないが、アルゼンチンでの本大会でもステージ部門がこのイベントの華であることには変わらない。年々、世界中が急激にレベルアップしてきてはいるが、アルゼンチンにいるクリスティアン&ナオをはじめ、日本勢の評価が高いのは今も変わらない。なんとかステージ部門も頑張って貰いたいと思う。

さて、今回はこのタンゴダンス世界大会の統括プロデューサーであるモッシ氏とも色々話してきた。今年も不況の影があるにもかかわらずメトロポリタン大会などかなりの盛況で、昨年辺りからはヨーロッパ勢の意気込みがかなりのものになっているという。昨年からは我々のアジア大会を真似て,ヨーロッパ大会というのが開催されている。ヨーロッパ各国の上位者たちを中心にヨーロッパの代表を送り込み、その上位入賞者たちを世界大会にシード権を持たせて送り込むと言うものだが、昨年はそのヨーロッパ大会では難しい問題が起きたらしい。審査員の問題。アジア大会でも第一回目には苦労した問題だ。ヨーロッパでもアルゼンチンからと,各国からの審査員が選ばれて審査するのだが、各国とも自分の国の代表者に高得点という問題がかなり明白になってしまって,昨年は終了時点から大ブーイングが起こったらしい。確かに、昨年はモッシたちもヨーロッパ大会に関する質問には顔を曇らせていた。今年は、自分の国の出場者にはその国の審査員は採点しないという方法をとったらしい。いずれにしてもヨーロッパ勢の意気込みはもの凄いらしいから要注意である。それから、世界大会の方でも今まで審査員の問題はかなり指摘されてきた。審査員の公平な審査をと言う観点から、審査員の選出をアルゼンチンの教師協会に任せ、予選、準決勝、決勝と、それぞれが別々な審査員が担当、しかも、担当審査員は当日まで発表されないということを厳格に守ってきたのだが、最近はその審査員の選出方法にまで問題があると指摘されるようになった。そこで、今年は審査員の選出方法そのものから変更してそのことすら秘密になっている。昨年モッシ氏からアドバイスを求められて、いくつかの提案をしたが、それらのこともいちいち採用されたようだ。
どうやっても,これが一番という方法はないことだが、是非公平さが保てる方法に近づいて欲しい。

それにしても審査員の問題はかなりデリケートな問題だ。アルゼンチン・タンゴの選手権の場合、まだまだ歴史が浅いから、審査員は経歴を持つダンサーたちやプロデューサーたちから選ぶのが普通だが、これも、審査基準というものをスポーツの世界ほど明確に出来ないから難しい。フィギュア・スケートや社交ダンスのようにスポーツのような採点方法になると、それがそれでタンゴ・ダンスの妙味が失われる。先生が自分の信じるダンスを良くこなす生徒に良い点を与えるのもある程度はしょうがないことかも知れない。しかし、そんなことを全部クリア出来る方法はなかなか思いつかない。アジア大会の方はいつも世界大会と連絡を密にして、できるだけ日本とは直接利害の少ないダンサーたちに審査員を選ぶことにしているが、それだって毎回毎回自問自答する。それでも、アルゼンチンからやってきたチェッカーや、審査員たちからの評価は「日本でのアジア大会が一番公平」とのお墨付きを頂いている。要は審査員に選ばれた人たちの人柄と公正さがものを言うわけで、少しでも疑いがあった場合には,翌年からは遠慮して貰うようにしている。難しい問題だが、」1年間練習してきた出場者たちの苦労に報いるためにも、ここは頑張って良い結果を出し続けたいもの。ここが揺らぐと、大会そのものの意味がなくなるからだ。今年の審査員ももうそろそろ発表の時期だが、今年も審査員会議ではその辺を徹底したいと思う。

東京タンゴ祭。今年もますます人気がある大会になった。帰国後すでにS席が数少ない状態で、今年はなんとか満席にしたいとスタッフたちが頑張っているが、恐らく今年も集客はかなり順調と言っていい。出演陣も今年はまた多彩になった。唯一の大学生バンド、オルケスタ・タンゴ・ワセダからの卒業生による新グループ、シエロ・アデントロは、いわゆる現役を離れてからも、演奏したい一心でライヴを続けてきたメンバーたちによる集団。せっかく大学までやってきて、卒業で辞めてしまうのはもったいなすぎ。その先輩格ロス・ポジートスを見習って末永く活躍して欲しい。他に、智詠ギター・デュオというのも初出場。じつは、以前にあの「shimauta」のアルフレッド・カセーロが来日してタンゴを歌うと言う企画で、たしか前の日になって電話でギタリストが欲しいからなんとかして欲しいと頼まれた。たまたま智詠さんが空いていて急遽お願いしたことがあるが、カセーロが連れてきたギタリストも絶賛したギタリストだ。中南米音楽の大好きなご両親の元、6才から南米のフォルクローレを演奏し昨年はアルゼンチンでフアン・カルロス・カラバハルと共演してきたし、フラメンコは2002年からスペインで修行し、沖仁のサポートメンバーとしても活躍してきた。タンゴも青木菜穗子と共にアメリカ・ポートランドの「Valentango」フェスに出演してきた。デュオとしては菅沼聖隆と組むこともあるが、今回は大柴拓さんと組んでの出場。楽しみなデュエットだ。さらに,九州・福岡を拠点に活動するトリオ・ロス・ファンダンゴス。アコーデオン、ピアノ、バイオリンという編成で、普通は話術の巧みなバイオリンの谷本氏仰氏の進行で観客を彼らの世界に引き込んで行く構成で抜群の人気を誇っているが、今回はタンゴ祭のルールで演奏以外の時間は与えられずとても残念。しかし、youtubeでも彼らの楽しいステージぶりが見られるので,是非これをチェックしてから会場にいらして欲しい。 海外でも人気のダンス・カップル、ケンジ&リリアーナの共演も乞う期待。そして、これも初めてだが、じつに楽しみなクアルテート。ティピカ東京の岡本さんに師事してバンドネオンを始め、アルゼンチンではコロールタンゴのアルバレスにも師事した本格派のバンドネオン奏者、池田達則、バイオリンの瀬尾鮎子さんは、クラシック界で活躍した後一昨年、パブロ・アグリに師事してきた。ピアノの深町優衣さんさんもクラシックから始め、エストレージャス・デ・パンパでも活動する他、ブエノスではコランジェロに師事してきた。大熊慧も、ブエノスであのオラシオ・カバルコスに師事してきたベース奏者。昨年スケジュールが合わずに参加してもらえなかった京谷さんも参加してくれるし、オルケスタ・アウロラも自作アルバムに向けてかなり気合いの入った中での出演となる。今回は会場も第一回と同じ浅草公会堂。満員の聴衆の前で熱い熱い演奏が聴けそうだ。

ダンスばかりがもてはやされる現状に、頑張って一昨年のアルゼンチン・ビセンテナリオ(建国200周年)の年を記念して始めたこのイベントだが、もともと日本では多かったタンゴ演奏のファンが完全に支持してくれるようになった。これは今後もずっと続けていきたい企画だけに、なんとか今年も盛り上げたい。

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