選手権に振り回されている間に世界は….

新チャンピオン、高志&めぐみヲ表彰するアラン・ベロー大使

 ここ数年、選手権の前は海外出張が重なり、直前に帰ってきてああだこうだ言うものだからいつも社員のヒンシュクを買っていたのだが、今年は行く仕事があってもその仕事に確実性がないこともあって、ゆっくりと選手権と向き合えた。ところが、元々8人しかいない弱小会社が、2人の欠員(8月には強力なのが復帰する予定)で大変。本当に廻りのみんなの協力で乗り切るしかなかった。参加者は史上最高、その上ロマンティカ問題が前日におこってしまい、実は惨憺たる思いで選手権を迎えることになった。その割には、ウェルカム&フェアウェル・ミロンガも含めてなんとか盛大に執り行うことはできたが、実は関わってくれた全員が、薄氷を踏む思いで動いてくれていた世界だった。

 さて、会社の性格上、一つのイベントがあると、全員が世の中のことなどかまう暇がなくなる。終わってホっとすると、あぁ、世の中こんなことが起こっていたんだ…となる。今回はG20の直前で、まず、アルゼンチン大使はそれどころではなかったはず。直前の10~13日の間、アルゼンチンからエチェベレ農産業国務大臣が来日。新潟で開かれた農業大臣会合や,、13日東京で開かれたアルゼンチン農産業への投資を促進するセミナーなどを開催していた。日本は、昨年のブエノスアイレスG20サミットから引き継いだわけだから、今年は当然アルゼンチンのマクリやブラジルのボルソナーロも参加するが、在日アルゼンチン大使館は、今やてんやわんやの状態のはず。しかし、大分前から弊社には、16日の選手権にはアラン・ベロー大使が「一人でも参加する」と嬉しいコメントを頂戴していた。大使は、結構早くから会場に現れてくれて、見事な挨拶をしてくれた。こんな状況での一言を司会に示唆したが、状況に無知な司会者はそれを無視。まぁ、プロではないからしょうがないが、これは彼の限界と思うしかない。

 ところで、大阪市がブエノスアイレス市と姉妹都市であることをほとんどの人が知らない。加えて、日本のタンゴの歴史の中では、オルケスタ・ティピカ東京の早川晋平さんや、今でもタンゴ界を牽引しているバンドネオンの京谷さんは大阪の出身と聞いている。その割に、今の大阪ではブエノスアイレスが話題になることも少ないらしい。本当は、大阪市がG20の前後にタンゴ・フェスティバルでもやってくれたら注目されるだろうと思うが、叶わなかった。

 ところで、今年のアルゼンチンは大統領選挙の年。10月28日が投票日だ。ついこの間まで現政権が勝利と言われていた予想が、ここに来て大分雰囲気が変わってきた。マクリ大統領は、政権当初こそ、彼のマクロ経済が一応評価されたものの、2年ほど前からの経済悪化でこのところは人気も最悪になってきた。大統領候補の締め切り日が間近になって、マクリは、ペロン党の穏健派の重鎮ピチェット上院議員に決定して、暫くぶりに株価もEMB指数も改善した。2015年も、このペロン党の穏健派を取り込んで選挙に勝った実績はあるが、ここに来て、ペロン党の分断を図るべく思い切った手に打って出たが、果たして成功するか?最近アルゼンチンを訪れた人は一様にペソ急落中を実感して帰ってくる。ペソ安が少しでも停まりそうになるとマクリの人気も一応落ち着くが、下がり始めると人気も急降下が来る。ずっとその繰り返しでペソ安傾向は止まるところを知らない。IMFからの負債に加えて、国債の償還もかねて、2年前、ブエノスでG20が開催されるというので、IMFからの563億ドルの融資枠を決めていたが、すでにこの4月にはさらに借款を繰り返し、総額389億ドルの融資を得ることになっている。これではまたもデフォルトか、と国民の不安は増すばかり。500O億ドルの融資枠を決定した直後からの米国金利上昇の波に飲まれてペソ安が止まるところ知らないものだから、このペソ安不安はとどまることはないだろう。一方のクリスティーナ前大統領も、政権時の汚職疑惑の裁判が続いたにもかかわらず、国内の特に地方での強さは相変わらずで、マクリが失敗すると人気回復、この4月にはマクリの上を行ってしまった。このクリスティーナは、さすがに行政には自信をなくしたか、10月の選挙では前首相だった2年前、ブエノスでG20が開催されるというので、アルベルト・フェルナンデス元首相を担ぎ出す他、一応ペロン党の一体化に腐心中。まぁ、一度酷い経済施策をさらしてしまった政権に逆戻りする可能性は少ないのは日本も同じだろうが、今のところはクリスティーナ人気が、マクリ人気の上を言っているという現実がある。

 と言うことはまぁ、どうやってもこの国の近い将来を楽観する人はいなさそうだ。アルゼンチンは「元祖ポピュリズムの国」と言われるが、その点では徹底している。なにしろ、その昔エビータの夫君ペロン元大統領が、世界戦争に明け暮れる両方の国に農作物を輸出して大儲けした金で、教育・医療タダ、国や詩の文化イベントの入場料は当然タダみたいなことは現実に今でも行われ、急激に改革しようとしたマクリ政権(水道代375%、ガス代300%、電気代は一部700%、乗り物運賃100%)になった今、多少は変更されたとは言っても、それで経済が上向き続ければ良いのだが、少しでも失政に遭うとすぐに逆戻りする。今がまさにその状態だ。我々に関わる部分では、余り金を持たないでブエノスで生活しようとするものにとって、CCKでの席的アーティストの入場料金もタダだし、国や市のイベントさえ観ていれば、すべてタダ。驚くばかりだが、これがある限り、この国に光はささないんだろう。選挙が近づくと、どの国にも現れるポピュリズムだが、我が国に関してだけは底辺層を援護するよりは大企業を援助し、酷いくらい恣意的にデータを扱かって発表し続ける見え見えのやり方だ。それを正しく看破できていない野党のだらしなさも見るに堪えない。でも自分にできるのはたった1票。大事に使うことにしよう…トホホ。

 マクリ大統もこんな国内事情を抱えての来日だが、G20でやってくるG20の首脳たちは、いずれもお国では厳しい現実にさらされている。これを受けての日本のマスコミの対応がまた情けない。あれだけ国民から審判を突きつけられているマクロンのオーバーな受け入れぶりには情けなくなるし、マクロンのルノー保護発言をただただ放映する姿に、マスコミの政治感覚のなさが露呈していると思うのだが…ガッカリ。それにしても今回のG20ほど立場の危うい首脳が集まった会議はない。これでは痛み分けで、正しい共同宣言も何も期待するべくもない。あったにしてもまやかしばかりになるに違いない。

 と、ここまで書いたら、大阪のイトーヨーカ堂八尾店の「アルゼンチン・タンゴ・フェァ」が大盛況だったと第2回世界チャンピオンの池本葉月(亮&葉月)さんがFBで教えてくれている。なんとマクリ大統領が、ここに訪ねてきたらしい。過去の政権よりはサッカーや文化に理解はある政権なのだが、頑張って欲しい、と単純に思う。

史上最高の盛り上がりを見せたタンゴダンスアジア選手権

ステージ・チャンピオン、高志&めぐみ

 今年で第16回目を迎えたタンゴダンス・アジア選手権、6月15日、17日の両日、いつもの渋谷・さくらホールで行われた。3週間前まで、ということは参加申請締切日の1週間前までは、昨年の記録に少し及ばないかと思っていた申込数も、蓋を開ければ昨年の数字を軽く越える127組(このうち数組が事情で棄権)という申請者を得ることになった。この辺りから、急激に忙しくなった。

  申請受付、180日ルール(180日以内に出場者と何らかの接触を持った審査員は当該出場社の審査はできない)の整理、審査員、チェッカー受け入れ、進行表作製、映像関係の準備、当日撮影の準備など雑誌編集の出稿締め切りと重なった弊社の社員たちはもちろん、進行役の舞台監督、照明、音響、DJの天野さん、司会のHiroshi、英語通訳の中村詩のぶさん、それ4月から大学で西語の教師の仕事も始まって忙しい折に、元弊社社員としてこの選手権立ち上げに大活躍した太田亜紀さん、もう何年も裏方の一切を取り仕切ってもらっている棚田先生ご夫妻を中心にしたFJTAのたくさんのスタッフ、韓国語の通訳のウンジュさん、他にもたくさんの人達の協力を仰いで何とか始めることができた。もちろん、これは選手権が近づいてきてからの話で、昨年さくらホールの予約にいろいろ協力してくれた仲間から、チラシ、ポスターの制作、配布から、審査員の契約、ビザの申請、自分勝手で我が儘な世界大会本部とのやりとりも含めて、大変な苦労を経た上での開催だ。最終的にものすごい盛り上がりとなったが、これはひとえにこのほとんどボランティアに近いタンゴを愛する皆さんの協力のおかげと感謝したい。オフィシャル・ミロンガの運営を任せたATPA(アルゼンチンタンゴ振興会)は、今回はとんだ騒動に巻き込まれたが、結果的に昨年不評だった内容を改善、みんなが一緒になって健闘を讃え合う、素晴らしいミロンガに仕上げてくれた。まだまだ規模は小さくても、やることの量は殆ど変わらないわけで、関わったみんなの心意気には、心からの拍手をお願いしたい。

  ところで、昨年のアジア選手権以来顕著になってきたのは、アジア諸国からの参加が大幅にふえ、逆に日本の参加者がやや減っていること。特にピスタ部門での日本カップルの数が減ってきていることが残念だ。ピスタ部門では海外勢が多く参加するようになってきて以来、比率的には海外勢の方が優勢な状況となっている事も一員なのだろうが、ここでは日本勢のさらなる健闘を期待したい。

ピスタ・チャンピオン、Ma Jinzhehg & Wu Sime

今回から、審査方法も変わった。ブエノスアイレス本部での検討の結果、今までの最高点、最低点をカットし、それ以外の平均点での審査するこれまでの方法はなくなり、この180日ルールに該当した場合、その審査員が採点できない参加者の採点は別に要する補欠審査員が採点するように変更することとなった。アジア側の我々は、この方法も最善とは思えず、この決定に至った経緯を説明してくれるよう要請したが、結果は「本部での検討の結果、今年からはこうなったので従うように」というだけ、従うしかなかった。「最高点、最低点をカットして平均点」の方法はアジア選手権の我々が始めた方法で、本部側もやがてこれに習うようになった経緯がある。審査結果の公表も、アジア選手権が先に採用した方法だった。まぁ、審査方法を巡っては、本当はどの方法が「公平」なのか?本当の正解はなかなか難しいところだが、我々は中でもより公平になれば、との思いから、少なくとも3人の補欠審査員の「平均点」をその穴埋めに使うという方法を中では最善と思い、本部側の了承を得ていた。これでしばらく様子を見ようと言うことでやったのが今回だ。運営側も、審査員、出場者の両方の善意を信じるしかない方法だが、よりよい代替案も思いつかなかったのが実情だ。

 もう一つ、今回からアジア大会への出場できる国が明確にしてされてきた。これは以下の通りとなったが、今回に限っては、新たに加わった国からの出場は、限られたものになっているが、今後はさらに出場国が増えるものと思われる。

  アジア選手権に出場できる国は以下の通り。

アジア : アフガニスタン、サウヂアラビア、バーレーン、バングラデシュ、ミャンマー、ブータン、ブルネイ、カンボジア、中国、北朝鮮、韓国、アラブ首長国連邦、フィリピン、インドネシア、インド、イラン、イラク、イスラエル、日本、ヨルダン、キルギスタン、クエート、ラオス、レバノン、マレーシア、モルディブ、モンゴル、ネパール、オマーン、パキスタン、カタール、シンガポール、シリア、スリランカ、タイ、タジキスタン、東ティモール、トルクメニスタン、ウズベキスタン、ベトナム、イエメンオセアニア : オーストラリア、フィジー、マーシャル諸島、ソロモン、キリバチ、ミクロネシア、ナウル、ニュージーランド、パプア・ニューギニア、サモア、トンガ、ツバル、バヌアツ

 会場の盛り上がりは、今年は司会役の元チャンピオン、HIROSHI、英語通訳の中村詩のぶさんの軽妙な進行で、今年は言葉の問題が大分解消された事もあったのだろう、過去最高に熱いものになった。

最終的にピスタ部門が71組、セニョール部門が26組、ステージ部門が25組で、ピスタ、セニョール合わせて50組、ステージは13組がセミ・ファイナルに進出、決勝はピスタが20組、ステージが6組がファイナルに進出した。今年は競技のレベル、内容ともますます上がってきて、はっきり言ってファイナルに出場したカップルたちに殆ど大差はなかったように思う。そして、チャンピオンの発表。ピスタは中国から参加のMa Jinzhehng & Wu Simengカップルが、ステージは日本のTakashi&Megumiが頂点に。決勝の演技は、いずれも緊張感溢れた素晴らしいもので、二組のカップルには心からの祝福を捧げたい。以下、今年の選手権の結果は以下のサイトで確認を。

http://campeonatoasiatico.com/result.html

  会場は渋谷の大和田にあるさくらホール。これだけ出場者、観客が多くなるとさすがに狭くなってきてはいるが、出場者のパフォーマンスがすぐ近くで見られるし、なにしろ渋谷駅からすぐという立地も良い。来年もすでに6月20日(土)、21日(日)を予約した。オリンピックの年と言うこともあって、もう少し大きいところ、などと贅沢をいってる場合ではなかった。

アジア選手権をめぐるいろいろな動き

 今年もタンゴダンスアジア選手権の時期がやってきた。10連休が終わって気がついてみると後1ヶ月と少ししかない。しかし、ここに来て、アジア選手権に向けてのいろいろな動きが出てきている。昨年から始めたオフィシャル・ミロンガに対して、もちろん進め方にまずいところはあったにしても結構批判が集まったこともある。元はと言えば、タンゴダンス界とは一線を引いている弊社が、アジア選手権を公平感を持ってっすすめる事だけで精一杯だったので、それぞれに行われていた事前と終了後のミロンガを一体化させて、主催をATPAという団体に任せたことが原因なのかも、とも思う。しかし、それもアジア選手権を盛り上げようと、どこにも嫌われていないはずのATPAという在日外国人教師を中心にしたグループのミロンガにオフィシャルの冠をつけて、もう少しフェスティバル感を持たせたいと始めたことだった。すると、今まで、自由にミロンガをやっていた関係者からいくつかのブーイングがきた。

 と、そこまでは説明すれば理解してくれると思っていたのだが、そこに、アジアで展開していたアルゼンチン人のプロデューサーがオルケスタ・ロマンティカ・ミロンゲーロという人気グループを同じ時期に連れてきて選手権を盛り上げたいと言うことになったらしい。もともと、選手権の時期をもっとフェスティバル的にしたいと言う意味合いからして歓迎すべき事なのだが、こうなると昨年まったく利益も出さずに批判だけされたATPAをまとめているグループが面白くないこともある。それでも、そのグループとは、元々が選手権をもっとフェスティバルっぽく持っていきたいと言う話から起こした話だったから、彼らは今年は動き出して会場まで押さえているわけだから、当然やると言うことになった。これはもう選手権としても、今年はそこに冠をつけるのは当然で、来年からは、すべての勢力と上手くいくような会議でももって解決したいと思っている。で、問題は選手権が終わった時、その後の時間が被っているふたつのミロンガを両方とも上手くすすめるにはどうするか、だ。選手権終了後は、オフィシャルの方は、もともと深夜0:00までだし、会場からも近いので、選手権関係者や審査員、新しい入賞者にはオフィシャルの方に来てもらい、ロマンティカの方は深夜以降の演奏だと言うから、その後はそちらに参加してもらう、という流れにすることだ。今年は、なんとかそんなことでおさめたいと思っている。

 ここでFJTAという2年前まで共催してきたFJTAという、日本の教師が中心の団体だ。これは大きな団体だから、選手権に協力的な人とそうでもない人が居るので、団体はいずれも後援団体になってもらい、両者の中でも一生懸命やってくれる人たちには組織委員会と言うことで主催に名を連ねてもらおうと言うことになった。はっきり言って、この人たちの献身的な動きでアジア選手権は昨年飛躍的に成功した事は事実だ。しかし、弊社の知らないところで開催されたATPAとFJTAの、ミロンガを巡る会議では、ATPAに対しての批判が多く、もう一つのミロンガに応援する、と言う声も上がったそう。もっとも、アジアのマーケットに世話になっている教師もいるから、アジアの有力者の押しているロマンティカに応援したいという気持ちがある人もいるには違いないが、問題は、そのプロデューサー側からも、過去に審査委員をやったアルゼンチン人側からも、是非、審査員を、と言う声が上がったことだ。これは困る。弊社がどこにも偏らず公平にやっている団体だからここまで評価を落とさずにやってきたのに、それを受け入れては元も子もない。この一線だけは守る義務がある。

 昨年から、アジア選手権のピスタ部門の優勝者が8月の世界選手権の決勝シードになったことから、審査員の決定にはブエノス市の許可が必要になった。市の関係者は、アジアで今起こっている問題はおそらく全く把握していないから、この間ブエノスで、市との協議でもかなりやり合った。難しい問題だ。その他、挨拶がしたいだの、審査員の自薦者が現れるだの、このアジア選手権には面倒なことが多すぎる。その辺の判断は完全に弊社が取り仕切っているので問題ないが、もう少し「公平で、楽しい」イベントのために関係者は力を合わせるようにならない限りは、タンゴ・ダンス界の発展は無いだろうと心から思う。