2020年を襲っている新コロナ・ウィルス問題

 昨年の暮れだったろうか、テレビのニュースでコロナ・ウィルスの話題が登場したのは。中国の武漢でコウモリや蛇が保因していたもので、人には伝染しないとか言っていたのが、あっという間に人に伝染が確認され、正月を迎えて、家でキンテート・グランデの編集をやっていた1月7日頃、武漢の原因不明の肺炎は新型コロナ・ウィルスと断定され、9日にはその武漢で最初の死亡例まで発表された。その後は、昨年12月にこのウィルスのアウト・ブレイクについて警告を拡散しようとした武漢中心医院の眼科医、李文亮が警察に「噂を」広めない様、書類に署名させられたが、のちに新ウィルスに気づいた当局(当たり前だが最初から知っていた)が謝罪…こんなニュースばかりが目についた。1月20日になって、習近平が初めてこのウィルス対策に指示した。23日には武官を封鎖することになった。世界からは中国のトップの対応が遅かったと騒がれ出したが、そこはまたも中国の裏技だ。習近平1月7日にはすでに対策を出していたと突然公言までするに至った。もう、世界基準ではありえない嘘が公然とまかり通る国だ。

 1月16日は急な台湾訪問から帰国して翌日のブラジル、アルゼンチンに出発する日だったが、この日、日本で最初の感染者が出た。実は台湾でも少しはこのコロナの話題にはなったが、それよりも台湾公演の最終予算の詰めや、台湾ステージの独自プランの打ち合わせで慌ただしく終わってしまった。今考えると、台湾ではあのサーズの流行時の反省から、今回はかなり初期から対策に乗り出して、今ではほとんど感染者を出していない。で、その台湾のサーズでの反省を調べてみて驚いた。WHOと中国の関係だ。WHOは国連の専門機関だが、この期間を支え理拠出金は一番多いのがアメリカだが、分担金の他に資金不足を補うのに任意拠出金というのがある。これが金額ではアメリカをも抜いて一番になっているという情報もある。しかも今テレビでよく目にするエチオピアのテドロス・アダノム事務局長は、2017年のWHO事務総長選挙で、中国の応援を受けて見事当選、以来、中国の傀儡、とか中国の犬とも呼ばれている人だ。中国による台湾外しは世界の批判の的だが、台湾は1971年に中国が国連に加盟した時にWHOを脱退、今もWHOに参加できないまま。今回でも台湾は緊急事態会議にすら招待されていない。サーズの時は中国は情報を渡し続けているといいながら、ほとんどの情報を抱えたままで台湾では多くの死者を出す結果となった。だから、今回の台湾独自の水際対策は早くから万全で、感染者も少ないまま終えようとしている。ここにきて、テドロスは「コロナはアメリカが武漢に持ち込んだ」とする中国の趙立堅報道官のツィッターでの放言にも寛容な姿勢を見せたり、話題をヨーロッパに向けたり、誰の目にも明らかな「パンデミックである』とハッキリ言わない姿勢といい、あまりにもひどい傀儡ぶりをみせている。

 さて、しかし、コロナの世界への感染拡大ぶりはさらに激しい。2月26日にブラジルに発感染者あらわれて以来、3月20日には南米アマゾン最奥地カラウアリにも到達、感染者は600人を超え、ボルソナロ大統領は緊急事態宣言を出すまでになった。現在エクアドル、コロンビア、 ペルー、アルゼンチン、チリに感染が拡大、南極大陸以外、すべての大陸に感染が広がることになり、これらの中南米諸国では16日までに新型コロナウイルスの拡大防止を目的とする国境閉鎖を相次ぎ発表している。また、アルゼンチンのグスタボ・スラウビネン氏が次期議長に内定している核拡散防止条約(NPT)再検討会議は1年間延期を検討、サッカーのコパ・リベルタドーレスもグループ・ステージ第3節の延期を5月5日まで延期すると発表されている。

新型コロナの世界の入国制限一覧(これはオープンした日の状況が見ることができます)

 さて、コロナ・インフルエンザについて将来のための備忘録の意味もあって現在の状況をまとめてみたが、実はわがラティーナも1月から、このコロナ問題で振りまわされているからだ。まず、2月7日から始まったキンテート・グランデの日本・台湾公演。素晴らしい出来で何とか東京公演を乗り切ったが、2月29日に予定していたグラン・ミロンガの開催に対しては、日に日に廻りの厳しい目が向けられつつあった。すでにいくつかの公演の延期、中止が発表になっている中、東京公演は終わっていよいよ中止を発表することになった。いろいろな意見がある中で、残念ながら狭い空間で「濃厚接触」が明らかなダンス・パーティは無理と判断したのが一番の理由。近辺に、多くのミロンガが組まれていたのは知っていたので、そこへの影響も考えたが、タンゴ・ダンス界が世間から悪評を受けないためにも、この際まず決断しなくては、の思いもあった。結果、FJTAという団体は、仲間を思いやってか意識ある一理事の個人名での「自粛」要請だけとなったのは情けない限りだったが、これはそれぞれの考え方だし、この団体の意識がこんなものだ、と見られてもしょうがないと判断したからだろう。

 台湾の対応は早かった。日本に停泊して大問題になっていたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」が実は香港の後、台湾に立ち寄り、まだ問題も大きくなっていなかった段階で検査もしなかったのが発表され、乗客は自由に下船して台北市内を散策していたというから、騒ぎはかなり大きくなった。そこでまず、3月5日から19日まで9回も予定してくれたキンテート・グランデの台湾公演が延期できないだろうか、との問い合わせ。これはもう致し方ない。たまたま、10月に予定していた別のプロジェクトが会場を抑えていたので、そこに回すことで合意した。このキンテート・グランデの価値を最初から認めてくれていた台湾の関係者の早い対応と、素晴らしい手配に感謝しながら、先に取ってあった飛行機の変更や、メンバーの説得はなんとかうまく進めることができた。続いて、今度は日本公演だ、2月25日、北海道でも感染者が出ていたが、この時点では主催者の方もなんとか乗り切ろとしていたが、とうとう残り釧路、上田、足利、秋田公演を全てキャンセルすることになった。詳細については書かないが、この時の主催者のご判断と、その後の処理については、普通ではありえない実に寛大なものだった。メンバーも、ずっとコロナ問題を心配していたが、この寛大な決定に感激し、喜んで同意してくれることになった。こういう危機状況に、団体としての信頼性がいちばん問われるわけだが、その意味では頭がさがる決断だったと思う。

 同時にもう一つクリバスというアルゼンチンのグループを招聘していた。実は昨年弊社を辞めたM君という音楽大好き人間がアルゼンチンにいた頃から仲良くして心酔していたグループだった。編集長の花田はこのグループの記事を連載でやらせたり、CDも独占輸入して、この系統の音楽の中ではなかなかのセールスも記録していた。一昨年だったか、ブエノスアイレスで彼と初めて会い、暑い日だったのでホテルの部屋でビールを一緒に飲んだが、音楽にはめっぽう暑いとこだった。それから何度か会っているうちにとうとう日本公演をやることになった。そして、日本公演を進めるには実はいろいろな問題もあったが、なんとか実現にこぎつけた。それには、コトリンゴのブエノス公演で協力してやった経験が生きて、コトリンゴの応援が大きかった。昨年から弊社にで戻ってきたHくんが中心でやったが、最初の仕事だったので十分とは言えないが、なんとか大好評のうちに進んだ。東京2回、と名古屋まで行ったところで、残念ながら他の3回は中止にした。まぁ、クリバスについては、また全く違った角度でやることになると思う。彼らは、コロナの感染が大きくなってきて、なかなか日本滞在も気分の良いものではなかったろうに、3月5日のトルコ航空便(実はトルコとシリアの紛争があってヒヤヒヤしたが)で無事ブエノスアイレスに帰った。

 そんなこんなでコロナには十分痛めつけられたが、もう一人コロナでひどい目にあった仲間がいた。毎年、素晴らしい仲間と素晴らしいショーを作ってくれているカルラ&ガスパル。彼らは日本公演が4回分キャンセルで、台湾公演は10月に延期。その後インドネシア、イタリア、スペイン、ロシアの仕事が入っていたので、少し日本滞在したのち、航空券は自分で用意していたが、まずインドネシアの仕事がキャンセル。しょうがなく親しい友人の家に家族ごと世話になっていたが、その後ヨーロッパの3ヶ国もキャンセル。ここで、私たちが買っていた帰国便の日程変更ができたので4月2日に帰国することになった。そうしているうちに、アルゼンチンにも感染者が出て、帰国後14日間は自宅監禁に。ここまでだったらまだよかったが、いよいよ世界同様国境封鎖、帰国できなくなってしまった。心ある人たちの助けで、日本でも仕事ができることになって、なんとか凌そうだが大変だ。何しろ、3歳の子供がいるから…日本より安全なところはない、との判断だ。

 そして、もう一つ、6月20,21日に予定していたタンゴダンス・アジア選手権だが、このところの感染拡大と周りの状況を鑑みて、やむなくこれも中止することにした。アジア選手権といえば、アジア中のタンゴ・ダンサーが一年間そのために練習してきているし、一番楽しみにしているイベントだ。しかし、そろそろ5、6月のイベントの中止、延期も言われ始めた。それよりも、8月にタンゴ・フェスとタンゴダンス世界選手権を抱える、ブエノスアイレス市の方もかなり大変だ。昨年の選挙でくれに穏健派ながら中道左派政権が誕生して、それでなくても経済が大変な時。コロナで国境封鎖するしかない状況では、下手すると完全にデフォルトのまっしぐらかもしれない。今までの様に助けてくれるはずの国すら全部危機に陥っているのだから。しかも、世界選手権を取り仕切っているのは、首の皮一枚残ったブエノスアイレス市だ。予算がカットされるのは目に見えている。だから、今年はなかなか難しいと見るが。また、ヨーロッパもラテン諸国も、おそらくそれどころではないかも、だ。ファンには申し訳ないが、今年は中止するのが一番だ、となった。

 さて、この新型コロナ問題、ここにきてようやくオリンピック延期の話を政府も認め始めた。当然だ。どうしてオリンピックの今夏開催にこだわるのか。8月にオリンピックで目立っておいて、さらに総裁を務めたい人間に対する忖度か、あるいは、大金を受け取っていたIOCが「延期」といえないのか….世界中を敵にまわす前に延期をいう土壌ができただけでもホットしているが、この場に及んで大企業中心の打開策しか出てこないこの政権はもうダメだ。しかし、今の状態で薬ができれば、急激に収束に向かうかもしれない。どうやってもダメならリスクを避ける方法しかないだろう。みんなでいつまで死んだふり…できるかどうか、だが。