2020年春のタンゴシリーズ完成までの顛末!そして最高のスタート!______その1

 昨年は、民音タンゴシリーズが半世紀、50回目迎えたと言うことでそれは素晴らしいステージを展開できたが、周年と言うことで内部での宣伝活動が凄く、即ソールドアウトのところが殆どで嬉しい悲鳴だったが、外部のタンゴ・ファンには思いの外その良さが知られずに終わって悔しい思いをした。

 そして、今年は51回目、何か新しい力のあるタンゴ・バンドがないかと思っていたら現れたのが、今回のキンテート・グランデだ。一昨年8月のブエノスアイレスでのタンゴ・フェスティバルのプログラムにこの名前を発見。リーダーのマティアス・グランデ以外はよく知る凄腕ミュージシャンばかりだ。マティアスは、コロンのシンフォニーで演奏する著名バイオリニスト。そして、2014年に招聘したグレコス・タンゴ・オルケスタは、若い弟のラウタロ・グレコと兄のエミリアーノがリーダーだったが、実はあのメンバーには凄い音楽家たちがたくさんいた。ラウタロは一昨年ピアソラ財団がピアソラの死後、正式に認定したピアソラ・キンテートのバンドネオン奏者として活躍しているし、実はそのグレコ楽団の若いラウタロの目付役としてやってきていたニコラス・エンリッチは現代のアルゼンチン・タンゴの世界で最も注目されるバンドネオン奏者だ。伝統楽団やかなりすっ飛んだ現代タンゴグループの数々に引っ張りだこの逸材。マティアスが2015年このキンテートを結成するときにまず選んだのがこのニコラスだった。そして、ピアノは今までもオラシオ・ロモ率いるセステートやセステート・マジョールでもピアニストを務めるほか、最近はニューヨークのカーネギーで催された新しいタンゴ・イベントにも招待されて話題をまいたフルビオ・ヒラウド。チェロは本来来るはずだったカルメン・レンカル、ベースは言わずと知れたコロールタンゴの名手、マヌエル・ポポ・ゴメス。これ以上ない編成だ。

 リーダーのマティアスは天才フランチーニを敬愛するバイオリニストで、当初はフランチーニの佳き日のタンゴを最高のメンバーで復活させたいと、2015年にこのキンテートを結成したが、その後ニコラスの限りない才能を全員が再認識。「タンゴの向こう側(Nas alla del tango)」(彼らのアルゼンチン国内でのツアー・タイトル)を見ながら現代タンゴを目指すようになってきた。その原動力はもちろん編曲、作曲を担当するニコラス・エンリッチ。あのブエノスのとがった音楽ばかりをやらせるスポットCAFFでもたびたび登場して話題をまいてきている。

 しかし、この現代と伝統曲が混在しているプログラムの作成は大変だ。基本的にはマティアスとニコラスが日本ツアーの様子を考えて提案、それを5人で最終的に決定するというルール。しかし、そのニコラスが11月後半は他のグループの中国ツアーに出かけていて、なかなか連絡がとれずに進まない。しかも、新録音も、レコーディングは済まして出かけたが、ミックスを残して出発したから更に大変だった。

 たまたま、1月にブラジルの用事もあって、ブエノスに出かけられたから良かったものの、これがないままだと,とてもCDも1月発売にはこぎ着けなかった。今年は日本公演の他に台湾での9公演が続いたから、どうしても台湾との打ち合わせも必要。というので、13日台北に向かい、15日に帰国、17日昼、今回はイベリア航空経由でブエノスへの旅となった。

 別にイベリアを選ぶ必要はなかったのに、アメリカンのマイレージの制度がさすがに厳しくなってきて、アメリカンで行く利点が減ったので、わが心の故郷スペインの空気を一瞬でも吸いたくなって選んだが、さすがにヨーロッパ廻りはきつい。特にスペインまでの直行便は14時間機上で過ごすから、いくら映画を見繋いだところで辿り着かない。遠い。

 ブエノスについて一日おいて,20日ブエノスアイレスでの最終リハーサルに挑んだ。それまでに、おおよそのプログラム進行の打ち合わせはあったのだが、2部の流れは良かったのに、1部がどうにもまとまらない。で、急遽3組のダンスを入れた「タンゲーラ」を組み込んで曲順を大分変え<シャベリの場所を決めたらなかなか素晴らしくなってきた。ところで簡単に一曲増やすと言っても、今度はガスパルたちが張り切って3パレーハで挑むとなったから、衣装、その他練習も含めてまぁ金のかかること。しかし、これでまとまるんだから,しょうがない。納得のゲネになった。で、最終的にプログラムは以下に決定。

1-Q-Melodía Oriental (Juan Carlos Howard / Roberto Zerrillo) 
2-2B El Cuarto es Primero(Nicolás Enrich)Federico&Luciana - Gaspar & Carla
3-V-Nostalgias(Enrique Cadícamo-Juan Carlos Cobián/Vanesa
4-1B- Gallo Ciego(Agustin Bardi) Eber y Sabrina
5-)Q- A la Alta Escuela (Nestor Marconi)
6-1B-Quejqs de Banoneon (Juan de Dios Filiberto)version de Piazzola Federico&Luciana
7-Q-Milonguiña (dedicado a Sweet Mery)
8- Tanguera(Mariano Mores)Gaspar & Carla & Eber y Sabrina
9-Q- Circusサーカス(Nicolas Enrich)
10-V-Uno (Enrique Santos Discépolo / Mariano Mores)/Vanesa
11-3B-La Cumparsita 3 Parejas
1-2B Inspiración Fede & Luciana - Eber & Sabrina
2-Q-Ojos Negros
3-Q-Popo Perpetuo
4-V-Tus palabras y la noche/Vanesa
5-1B-Chiqué Gaspar & Carla
6-1B-La Bordona Eber & Sabri
7-1B-Libertango Federico & Luciana
8-V-1B Cualquiera de estas noches Carla&Gaspar / Vanesa
9-V-Los Pájaros perdidos Vanesa
10-Q- Astringente (Nicolas Enrich)
11-3B-Cromatango (Damian Carracedo) 3 Parejas
12-Q- Capricho Anunciado

23 - Todos saludo-La Cumparsita 

 タンゴの世界が他の国と違うのは、音楽家、歌手、ダンサーの立ち位置の違いだ。昔はタンゴグループは楽団の長が一番えらく、出演料の交渉も分配もすべて楽団の長がやっていた。次に歌手。歌手については売れると楽団よりも偉くなったりはしたが、もともと歌手もどこかの楽団で育てられて成功してきたから、やはり楽団リーダーには適わない。で、ダンスについては、もともとショーダンスという概念が育っていなかったから、立ち位置はつい最近まで低かった。楽団,歌手、ダンサーの順だ。現在ではショーダンスが当たり前になって、ブエノスアイレスのタンゲリアでもショーが一番大事、ショーのディレクターが一番先で、楽団歌手が決まることもある。しかし、一様にダンサーのギャラは高くないし、発言権もダンス・カンパニーのトップにならないと大変だ。

 今回のキンテート・グランデは、5人がそれぞれに活躍している大物ばかりだから、すべてが平等、次に歌手、そしてダンサーも大体同じような条件で決まってくる。しかし、今回の中心はやはりキンテートの言い出しっぺで、コロン劇場シンフォニーの名バイオリニスト、マティアス・グランデがすべてを取り仕切ることになっている。しかし、この日本の春のタンゴ・シリーズについては、カルラ&ガスパルはこの15年ほどは必ずリーダーとして選んできたから、私のショーの作り方からすべてを知り尽くしている。形ができたら、あとはガスパルとワッツアップで映像などをやりとりしながら仕上げていくことになっている。いつもはそれで上手くいくのだが、今回はマティアスがそれに慣れていない。だから、ブエノスアイレスでの選曲の変更、スタイルの変更等でも時間がかかる。ましてや、ダンス用に彼らのオリジナル曲を少し帰るだけでも大変だった。まさにガスパルの忍耐が窮地を救ってくれた。来日の2週間前に行ったブエノスで全員が揃っての最終リハーサルを行ったが、ガスパルも最後まで,振付の完成形をみせなかったり、ガスパルが依頼したとおりに音楽が変更されていなかったり…といろいろあった。その割に、私が日本か電話すると,すぐに解決するし、連絡が取れないときに他のメンバーに聞いても大体が「問題ない,俺たちが言っておく」で解決することばかり。久しぶりに始めて付き合う楽団マスターだったから簡単ではなかった。(次に続く)